海外支援従事者のひとり言

アジア、アフリカ、中東と緊急人道支援で渡り歩き、合間合間で旅に出る、半ノマド生活を送るパルワナが、海外支援で思うこと、旅の話、世界のこと、日本のことについて独り言ちます。

「国境なき医師団」の人種差別!?

www.msf.or.jp

 

国境なき医師団(MSF)といったら

緊急人道支援人道支援の団体の中でも老舗で大御所、

1999年にノーベル平和賞受賞も受賞し、

紛争ぼっ発による難民発生や大規模自然災害の現場においては、どの団体より真っ先に緊急支援に駆けつけ、

治安が極度に悪化して、職員の身の危険が確保できず避難せざるを得ないギリギリまで、

他の団体が退避しても最後まで現場に残り続ける

そんな人道支援団体のお手本という印象がある。

 

私はMSFに勤務したことはないけれど、

私が駐在したアジア、アフリカ、中東7か国のどの国でもMSFは活発に活動していて、

難民キャンプや支援現場でMSFのロゴマークはいつも視界にあった。

現場での支援団体間の調整会議にもいつもMSFの姿があり、

現場で知り合ったMSFの友人も何人かいる。

アフガニスタンでは直接お世話になりました!

parwana.hatenablog.com

 

現場に行けば、どこにでもMSFは医療、保健、心のケアなどの活動を通じて献身的に受益者のために働いている、

そんな尊敬すべき緊急人道支援の優等生的MSFに

非難すべき人種差別が蔓延している?!

news.yahoo.co.jp

 

緊急医療援助団体「国境なき医師団(MSF)」では体系的な人種差別がはびこっており、人道支援業務が植民地主義を増長させている──このような内容の文書に職員と元職員ら1000人が署名した。

 

MSFが「特権がある少数派の白人」による「何十年にも及ぶ権力と家父長主義」に目をつぶり、方策や採用活動、職場環境、それに「人間性を失わせる」プログラムを通して人種差別を永続的なものにしたと記されている。

 

なんと、1000人も署名!

そして目を引くのは

被害を被っていると思われる側のみが署名したのではなく、

署名した側に

MSF英国の理事長、MSF南アフリカの会長、

MSFドイツの事務局長など

組織の運営側管理側に携わる人々まで名を連ねていること。

驚き!

 

ただ、確かに、例えば、MSFでなくとも、どの国連機関でもNGOでも

現地職員と国際職員の間には大きな隔たりがある。

基本的には現地職員は

出身国においては国際職員にはなれない。

そして現地職員と国際職員は

責任も違えば、待遇も大きく違う。

私はそれを差別とは呼ばないけれど、

それを差別的とみる人もいるかもしれない。

 

そういえば、ケニヤのソマリア人難民キャンプでの出来事を思い出した。

このダダーブ難民キャンプはソマリア国境からほんの50km西に位置し、地域住民もソマリ系という、

ダウン・ケニヤン(ケニヤの他の地域出身のケニヤ人)にとってはほとんどケニヤと呼ばれる隣国ソマリアへの駐在という意識のようだった。

 

それで、国際職員は定期的に慰労休暇があるのに、

「駐在」現地職員であるダウン・ケニヤンには

慰労休暇がないのは不公平だ!

俺たちも「駐在」してるのに!という一悶着があった。

結局、私の団体では「駐在」現地職員にも

慰労休暇が付与されることになったけれど、

ダダーブ難民キャンプで活動する他の多くのNGO

現地職員に慰労休暇がある団体はほとんどなかった。

 

これを差別と呼ぶのか、

現地職員と国際職員の区別と整理するのかは、

誰の視点で見るか、個々の価値観、

解釈の仕方で違ってきて

白黒はっきりとした

「正しい」答えというのはないのだろう。

 

差別だ!と思う人がいたら差別になってしまうし、

それを悪用、乱用する人もいるだろう。

誰もが納得する明快なラインは、残念ながらない。

 

私は常に国際職員としての立場で

緊急人道支援の現場に身を置いているから、

今ある制度、ルール、慣習を国際職員として

当然のことと思って受け入れている。

でも、本部の不透明な人事や方針決定に対し、

それは不公平でしょ!と思うことはある。

本部なりの論理があった上での決定でも。

 

だから、違う立場の、

例えば、現地スタッフや他の国籍の国際スタッフが、

私が当然と思い疑いもしないルールを

差別と捉えることは十分あり得る。

記事にあるような、 人間性を失わせる」プログラム

というのは流石に誇張だと願うけど。

 

ただ、MSFの場合、

1000人にも上る多数の、異なる職制の職員、元職員が

人種差別だと署名したということは

真摯に耳を傾けるべきだろう。

 

救われるのは、MSFインターナショナルの会長が、

MSF内で進めていた一連の変革を加速させる「促進剤」になると歓迎し「痛ましい出来事を経て生じた、怒りや議論を促進させる良い機会だと考えている」

と前向きにコメントしたこと。

 

現場で受益者のために素晴らしい活動をしているMSF

会長の言葉が言葉で終わらず、

内部の職員たちにも素晴らしい団体として進化し続けるよう願っている。

 

。。。と偉そうに他団体にコメントしてますが、

自分の足元も気をつけなきゃ!